本州からの移住をきっかけに、いつかは北の大地で宿泊施設を営みたい——そんな思いを胸に描いていました。ある日、札幌の小さな料理屋で偶然出会った女将さんから、「1984年開業の旧モシリパユースホステルが売りに出ている」と聞いたのが、すべての始まりでした。稚内を訪れたこともなかった私にとって、最北の地での挑戦は未知の世界。観光地といえば宗谷岬のイメージが強く、「中央地区で大丈夫なのだろうか」という不安も正直ありました。
しかし調べていくうちに、この中央地区こそが稚内の人々の暮らしの歴史が息づく場所であり、駅や市役所といった公共施設が集まるまちの中心であることを知り、ここで挑戦してみようと決心しました。古い建物を自分の手で少しずつ整えながら、宿としての新しい息吹を吹き込む作業は、手間以上に楽しさと発見の連続でした。
これからは、地域の方々と一緒に「稚内の味と文化」を未来へつなぐ活動を広げていきたいと考えています。家で作るラーメン、飯寿司や切り込み、ニシン漬けなど、各家庭で脈々と受け継がれてきた味わいを、近所の方々から教わり、宿の台所で一緒に作りながら、少しずつ共有していく。そんな小さな輪を広げていくことが目標です。観光客の方にも、そうした地元の食文化を通して「暮らしの稚内」を感じてもらえるような場所に育てていけたらと思っています。
●中央地区で起業しようと考えている方へ
これから中央地区で起業を考えている方には、ぜひこのエリアの魅力を知ってほしいです。夏には観光客で賑わう活気があり、挑戦のしやすさを感じられる一方で、地域に根ざしたコミュニティがしっかりと存在しています。観光だけに頼らず、地域の人たちとのつながりを大切にすることで、日々の商いにも豊かさと楽しさが生まれてきます。ここ中央地区には、そんな「人と人が支え合うあたたかさ」が残っている。私はその温もりに触れながら、この地で生きることの喜びを感じています。